企業法務コラム
カスハラ事例|業種別のカスタマーハラスメントの被害例と対策が重要な理由について解説
更新日:2025/03/26
昨今は、カスタマーハラスメント(いわゆるカスハラ)に関する報道が増えてきています。企業の従業員が、多くの顧客からのハラスメントによって被害を受ける時代になってきています。皆さまも、カスハラに関して何かしらの対応・対策をとるべく調査・検討をしていらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、カスハラについての被害例と、対策が重要な理由について解説していきます。
カスハラと一般的なクレームの違い
そもそもカスハラと、一般的なクレームの違いはなんでしょう。
クレームとは、一般的には苦情として寄せられる意見を指します。「クレーマー」という言葉と共にネガティブに用いられがちな用語ですが、正当な苦情をクレームと呼ぶのです。
これに対して、カスハラは、①過剰・不等な要求、②暴言・暴力などの粗暴な言動、③営業妨害に当たるような連続での架電などの継続的・執拗な行為といった迷惑行為・不当な行為を伴うものを指します。まさに「ハラスメント」という言葉どおり、嫌がらせ的行動を伴うものがカスハラに当たるといえます。
カスタマーハラスメントは、会社にとっては、従業員の疲弊を招くなど、有害なことしかありません。会社としては急ぎ対応に迫られることになるでしょう。
実際のカスハラ事例
それでは、実際のカスハラ事例について、代表例をご紹介します。
なお、カスハラは、顧客のみならず、取引先からの行為も指します。
飲食業でのカスハラ事例
飲食業でのカスハラ事例は、典型的かつ事例が多いです。例えば、以下のようなカスハラがあります。
- ① オーダーを取る際に、暴言を受けるなどの高圧的態度を示される
- ② 料理の味などに難癖を付け、長時間従業員を拘束する
- ③ 正当な理由がないのに、値引き要求を受ける
これらの行為は、いずれも飲食業に従事する従業員の丁寧な対応につけ込んで行われます。
医療・介護業でのカスハラ事例
医療・介護業でのカスハラ事例も、多くあります。医師・看護師に対して、以下のような行為が取られることがあるのです。
- ① 本来処方するべきではない薬の処方を繰り返し求められる
- ② 正当な医療・介護行為を否定され、説明をしても納得しない
- ③ 医療機関・介護機関に、常識的範囲を超えて繰り返し電話する
意外に思われる方もいらっしゃいますが、医療機関・介護機関の専門的判断に難癖を付け、独自の見解を高圧的に主張する人が一定数いるのです。これらのカスハラ行為に適切に対応しないと、SNSやインターネット上の口コミでの誹謗中傷行為がなされることさえあり得ます。
建設業でのカスハラ事例
建設業でのカスハラ事例は、主に取引先からの行為が挙げられます(取引先からの行為もカスハラに入ります。)。
- ① 明らかに無理な工期・下請代金を承諾するよう求められる
- ② 明らかに高額な支給材の費用を請求される
- ③ 現場で職人が、元請業者からの暴力・暴言にさらされる
これらのカスハラは、建設業界から遠のく人を増やしてしまう大きな要因となっています。
運送業のカスハラ事例
運送業においては、取引先・顧客の双方からのカスハラがあり得ます。
- ① 取引先から、明らかに負担の大きい納期を要求される
- ② ドライバーの氏名等の個人情報をSNSで公表されたり、誹謗中傷されたりする。
- ③ 配送物に関し、故障等の言いがかりをかけられ、金銭を要求される
小売業でのカスハラ事例
小売業においては、飲食業同様のカスハラが目立ちます。
- ① レジ定員等に暴言を吐くなど、高圧的な態度を示される
- ② 商品の不満を、常識的範囲を超える長時間の電話等で述べる
自治体でのカスハラ事例
自治体では、窓口・電話でのカスハラが多く見られます。
- ① 窓口に長時間居座り、不当なクレームを述べ続ける
- ② 正当な理由がないのに、常識的範囲を超える長時間の電話をかける
カスハラの対策が重要な理由
このようにカスハラ事例についてご紹介してきましたが、今、なぜこれらのカスハラへの対策が重要と言われるようになってきたのでしょうか。以下では、カスハラの対策が重要な理由についてもご紹介します。
従業員のメンタルヘルスと労働環境の保護
まず、従業員のメンタルヘルス・ケアのために、労働環境を保護する必要があります。このためには、カスハラ対策が重要となります。
企業には、従業員の労働環境を安全なものとするよう配慮すべき義務が課されます(安全配慮義務)。充分なカスハラ対策がなかったがために従業員がカスハラを受けて精神的に崩れてしまった場合には、これによって生じた損害を、会社が賠償しなければならなくなることもあるのです。
企業のブランドイメージの維持
また、企業のブランドイメージも、カスハラ対策が不十分では、維持できないでしょう。企業内でカスハラが容認されていたり、個別の従業員に対応が委ねられていたりすると、SNS上でそういった情報が拡散されることもあり得ます。
このような直接的なレピュテーション・リスクを抱えないためにも、カスハラ対策は重要となります。
生産性と業務効率の向上
更に、従業員の精神的健康を維持することで、生産性・業務効率が向上することも期待できます。
もちろん、そもそもカスハラ行為に対応する時間自体が非生産的で業務効率を悪化させる要因ですので、カスハラ対策を策定しておくだけでも、カスハラ行為に対応するための時間を省略できます。これに加えて、カスハラ行為は従業員の精神の健康をも失わせますから、適切な対応をとって、その健康を維持し、従業員の生産性を落とさないでいることも期待できるのです。
法的リスクの回避
カスハラ対策は、企業に生じる様々な法的リスクを回避する機能も果たします。
カスハラ行為によって従業員の心身に故障が生じれば、企業が安全配慮義務違反の責任を負う可能性だけでなく、従業員が長期休養に入って休業補償をしなければならなくなる可能性や、労災保険の利用が必要になる場合もあります。カスハラ行為から起きる一つひとつの事態が、多くの法的リスクをはらんでいるのです。この点には、特に注意が必要でしょう。
他の顧客との公平性の確保
最後に、カスハラ対策を取ることによって、他の顧客との公平性を確保することもできるでしょう。
カスハラ行為に屈してしまうと、暴言等の高圧的手段をとる人を、他の顧客よりも優先してしまうことになります。このような状況は、他の顧客からしても企業に対するイメージを変えてしまいかねないものとなります。
最悪の場合、他の顧客も、自身への対応を優先してほしいと考えた際にはカスハラ行為をするようになってしまいかねません。このような事態を誘発しないためにも、カスハラ対策は十分に取っておきましょう。
企業に必要なカスハラ対策について
まさに今、企業にはカスハラ対策が必要とされています。
2024年5月には、JR西日本が、カスハラに遭った従業員に、専門の弁護士を紹介し、カスハラをした者への訴訟提起などを容易にする施策などの各種対策を取ったことが大きく報道されました。このことが大きく報道されたこと自体、カスハラ対策が重視され始めた世相を示すものといえるでしょう。
このように、カスハラ対策のニーズが高まってきていますから、例えば以下のようなカスハラ対策をとることが考えられます。
- ① カスハラを定義した上で、その対応方法等を記載したマニュアルを策定する
- ② カスハラへの対応策等に関する研修を実施して、従業員の対応を画一化する
- ③ カスハラに遭った従業員に対するフォローアップ体制を構築する
これらの対応を取ることで、従業員からの信頼を獲得することができると良いでしょう。また、カスハラによる従業員の退職といった貴重な人材流出も防ぐことが期待できます。
企業がカスハラ対応を行わなかった際のデメリット等については、以下のページもご覧ください。
自治体のカスハラ対策・罰則について
また、2024年以降、各地方自治体がカスハラ防止条例を策定し始めたことも報道されています。2025年4月1日からは、東京都で「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行され、その適用が始まります。国がカスハラに関する法律を策定するのも、そう遠くない未来の話かもしれません。
東京都の条例では、カスハラ行為に対する罰則までは策定されていません。しかしながら、カスハラ行為が刑法上の強要罪・脅迫罪・恐喝罪などの刑罰に触れれば、当然刑罰が科される可能性が生じます。
企業としては、これらの自治体のカスハラ対策・罰則の有無、今後の法整備の進捗等の情報をタイムリーに集めていく必要があります。自治体のカスハラ対策等については、以下のページもご覧ください。
カスハラ対策は弁護士に依頼できる
このように、時勢からしても、カスハラ対策は企業の喫緊の課題といえます。この記事をお読みいただき、お困りの経営者の方が多いのではないでしょうか。
そのような方は、ぜひ、上記のようなカスハラ対策は弁護士にも依頼できるということを念頭に置いていただくことをお勧めします。
弁護士であれば、そもそもカスハラなのか正当なクレームなのかという見極めから、カスハラに対する対応方法まで、個別の事案についての的確な助言をすることができます。また、実際にカスハラ問題が発生する前に、カスハラ対応マニュアルの策定や、カスハラ研修を実施する際の研修講師依頼などもできるでしょう。最終的に悪質なクレーマーに対する裁判対応・刑事告訴まで含めた断固たる対応の依頼もできるでしょう。
ぜひ、お困りの際・お悩みの際には、弁護士へのご相談・ご依頼もご検討いただければと存じます。
まとめ
さて、以上のとおり、業種別のカスタマーハラスメントの被害例と対策が重要な理由についてご案内しました。実際に既にカスハラにお悩みの事業者の方も多いのではないでしょうか。
上記のとおり、カスハラ対策は弁護士に依頼できます。当事務所では、多くの企業顧問を抱えており、各業種別のカスハラ対応を熟知しております。カスハラ・カスハラ対策にお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。当事務所は、あなたの会社と従業員をお守りいたします。
監修者
弁護士法人グレイス企業法務部
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