企業法務コラム
第10回「商標権 −商標権者に対する攻撃方法(商標権の消滅)−」
更新日:2019/10/27
知的財産権
弁護士:森田博貴
1. 総論(各種審判と異議申立て)
今回は、商標権者に対する攻撃方法をテーマにいたします。商標権が、特許庁の登録により発生する権利であることはこれまでも何度も言及してきたことですが、今回は、その登録を消すことにより、商標権を消滅させるための手続を解説させていただきます。
まず、商標権を消滅させる方法として、下記3つの制度が用意されております。
- 無効審判
- 取消審判
- 異議申立て
さらに、取消審判には、下記5つの類型が存在します。
- 不使用取消審判
- 商標権者の不正使用による取消審判
- 商標権の移転により出所の混同が生じた場合の取消審判
- 使用権者の不正使用による取消審判
- 同盟国の代理人等の登録による取消審判
これらはいずれも特許庁への請求ないし申立てとなります。
2. 無効審判と取消審判
無効審判、取消審判はともに「審判」です。審判というのは、特許庁の判断(審決)が下される手続です。ただし、特許庁は、行政府に属する機関に過ぎず、司法府ではありません。したがって、法令解釈や事実認定に関する最終判断権があるわけではなく、特許庁が下した判断(審決)に不服がある当事者は、当該審決を対象に、裁判所に対し、審決取消訴訟を提起することができます。なお、審決取消訴訟は、東京と大阪にある知的財産高等裁判所の専属管轄となるので、鹿児島地裁や東京地裁に訴えを提起することはできません。
審判の手続は、特許庁に審判請求書が提出され、これに対し、商標権者(被請求人)が答弁書を提出して反論します。このように、審判は、当事者がそれぞれ主張を展開する形式(二当事者対立構造)に沿って追行されることとなります。
無効審判とは、登録された商標が、たとえば普通名称や先行周知利用等の理由により、本来登録されるべきでなかったとの主張を第三者が行うことで、一度登録された商標権の効力を、遡及的に消滅させる手続です。無効審判を訴えることができるのは、利害関係人、たとえば、侵害者として警告を受けたような者が請求できることとなります。
取消審判は、登録の時点では誤りはなかったものの、その後に、登録商標を一定期間使用しなかったり、あるいは、品質誤認を生じさせる不正な使用が行われた場合に、事後的に商標登録を取り消すものです。無効審判とは異なり、登録後の事情を理由として、商標権を消滅させるものですので、遡及効はなく、取消しの審決が確定した後に商標権の効力を消滅させるに過ぎません。
3. 異議申立て
審判以外の方法で商標権を消滅させるものとして、異議申立てという手続が存在します。異議申立てができるのは、商標が登録され公開広報に掲載させてから2ヶ月以内です。主張できる異議事由は、無効審判に関するものとほぼ同じです。異議申立ての審理方法も、審判と同様、特許庁審判官の合議により判断されます。
無効事由と異議申立ては非常に似た制度ではありますが、その制度趣旨を異にします。すなわち、無効審判は侵害と主張された者の対抗手段として有効であり、これに対し、異議申立ては、登録された商標がされるべきでなかったとの主張を2ヶ月以内に限り認めるものです。
監修者
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