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企業法務コラム

第10回「民法改正(7) -売買契約-」

投稿日:
更新日:2019/10/27

法改正

弁護士:大武英司

民法改正(7) -売買契約(1)-

今月から、民法改正のうち最も身近な契約類型である「売買契約」について取り上げます。今回は「売主の義務」について重要な改正点がありますのでそれについて触れさせて頂きます。

次の事例をお考えください。 「Xは、自分の所有する自動車AをYに売却した。ところが、Yが自動車Aの引渡しを受けてから2ヶ月が経過した頃、自動車Aの調子が思わしくないのでYが自動車整備工場で見てもらったところ、もともと自動車Aは事故車であり、エンジンに欠陥があることが判明した。そこで、YはXに対し、自動車Aの代替物を提供するよう請求しようと考えている。」

この事例のポイントは「自動車A」がもともとXの所有していた中古車であるという点です。新車は大量に生産されているため、同種のものであれば代替可能となりますが、中古車はまさにその車の個性(例えば、傷の有無、走行距離数、前の所有者の利用状況等)に着目されて販売されているため、この世に2台と存在せず代替不可能なものです。法律上、前者を不特定物、後者を特定物といいます。特定物の典型例としては、中古車のほかに不動産が挙げられます。

現行の民法では、上の事例のような特定物の売買においては「代替物が存在しない」と考え、仮に売買の目的物に瑕疵があったとしても、売主としては契約で定められた特定の物を給付すれば債務の履行は完了し、瑕疵の修補や代替物の提供をする義務までは負わないと考えられておりました。

ところが、改正民法では、特定物であろうと不特定物であろうと売主には契約の趣旨に適合した目的物を引き渡す義務があると考え、特定物の売買であっても売主に対し瑕疵を修補する義務や代替物の引渡義務を課すこととしました。

上の事例を改正民法にあてはめると、YはXに対し、自動車Aの代替物を提供するよう請求することができることになります。もっとも、エンジンの欠陥がYの責任に基づくものである場合であればYの代替物請求が認められないのは当然です。

なお、この規定は当事者の契約によって排除することができますので、皆様が契約書を取り交わすにあたっては、自分に不利でないか否かを注意することが重要です。

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【著者情報】

企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)

九州大学大学院法学研究科修士課程 修了

米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業

三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務

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監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

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