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企業法務コラム

建設業における契約書作成上の注意点

投稿日:
更新日:2020/11/13

建設業

1.書面の交付義務の存在

建設工事に関する請負契約とは、建設業者が、建設工事を完成させることを約束し、注文者がその工事結果に対して工事代金を支払うことを内容とする契約です。これは、民法でいう請負契約にあたる契約です。そのため、原則として、口頭でも同契約は成立します。しかし、建設業法第19条1項には下記の規定が存在します。

第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
(以下、省略)

前述したように、契約の成立に契約書の存在は必須ではなく、一部の例外を除き、口頭でも契約は成立します。もっとも、建設業法は、上記のとおり、契約に際して特定の事項を記載した書面を作成することを求めています。そのため、建設工事にあたっては、同条に定められた事項が記載してある書面の交付が同法上義務化されているということになります。このように、法律上書面の交付が求められているのは、請負契約の内容を明確かつ正確にすることを担保し、事前に紛争を予防するためです。

なお、一定の要件を満たせば、電子による書面の交付も認められています。

2.契約書に記載すべき内容

建設工事に関する請負契約に際して交付する書面に記載すべき内容は、建設業法19条1項に規定されています。具体的には下記の事項が明記されています。

工事内容

請負代金の額

工事着手の時期及び工事完成の時期

工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容

請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

価格等の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め

十一 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期

十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

十三 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容

十四 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

十五 契約に関する紛争の解決方法

以上のとおり、同法第19条1項は、書面に記載すべき事項について詳細に定めています。また、その内容も工事内容と請負代金の額といった請負契約の本質的な事項も含まれています。そして、そのほかにも建設工事を行うにあたって基本的な事項を書面に記載することが求められています。これは、前述のとおり、同条の趣旨が請負契約の内容の明確等にあることから当然の帰結といえます。

なお、4号の「工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容」は今回の改正により新たに追加されたものです。これは、実際に建設工事を行う者の休日の確保のために追加されたものです。つまり、工事を施工しない日等を明確にすることにより、注文者からの要求により休日を確保できなくなることを防ぎ、建設業に就業する方々が十分に休日を取れるようになるということです。

3.契約書を作成しない場合のデメリット

(1)行政処分

まず、同法第19条に定められた事項を記載した書面を交付しない又は内容が同条を満たさない書面を交付した場合、これらは同条に違反するということになります。もっとも、建設業法第19条に違反した場合の罰則はありません。また、同条に違反したからといって請負契約そのものが無効となるわけではありません。

しかしながら、同条に違反した場合、行政庁からの指示や勧告を受ける可能性はあります。そして、このような指示等を受けることは会社の評判にも関わり、会社経営への悪影響も十分予想されるところです。そのため、罰則がないとしても、これを遵守しなければいけません。

(2)当事者間での紛争リスク

前述したように、建設工事に関する契約書を交わしていない場合、そもそも工事代金がいくらであるかをめぐって紛争が生じることは珍しくありません。また、工事内容についても、客観的に書面で確認していないことから、当事者間の認識に齟齬が生じ、工事の完了について紛争が生じる可能性もあります。このように契約書という客観的なものを作成しない場合、本来であれば防げたはずの紛争が生じるおそれがあるのです。

そして、一度紛争が生じてしまうとそれを解決するために費用も時間も必要となります。また、工事代金の支払いを受けられないことにより資金繰りが悪化し、経営にも大きな悪影響を及ぼすことになりかねません。そのため、建設業法の義務の有無にかかわらず、契約書の作成は必須といえます。

4.最後に

以上のとおり、建設工事を請け負うにあたって作成すべき契約書について説明いたしました。しかし、現在使用している契約書が上記の内容を満たしているのかを知りたい、そもそも契約書から作成しなければならないという場合、自分でこれらの問題を解決するのは一苦労です。そこで、契約書の作成について法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

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【著者情報】

企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)

九州大学大学院法学研究科修士課程 修了

米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業

三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務

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監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

本店所在地
〒105-0012 東京都港区芝大門1丁目1-35 サンセルモ大門ビル4階
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