企業法務コラム
配転命令を出したいときに注意するポイント
更新日:2025/02/25
東京・神戸・福岡・熊本・長崎・鹿児島に拠点がある弁護士法人グレイスの労働法コラムです。
今回のテーマは、企業による資格取得支援とその法的留意点についてです。
そもそもですが、配転というのは、転勤のことでしょうか。
少し違いがあります。一般的には、配転とは、勤務地は変わらないものの、勤務する部署が変わることを指します。転勤とは、勤務地が変わることを指しますから、厳密には同じではないです。但し、勤務地と勤務する部署が一緒に変わることもありますから、その違いを厳密に分ける必要はないと思います。法的に見ても、配転と転勤はおおむね同じ論点になりますので、今回は両方をまとめて説明しますね。今回は「配転」を前提にして説明しますが、特に断らない限り、「転勤」でもあてはまると考えてよいです。
会社は、従業員にいつでも配転の命令を出すことができるのでしょうか。
結論から言いますと、無条件に配転の命令を出すことはできません。
そうすると、どのようなケースで認められないのでしょうか。
まず、大前提として、会社の就業規則や従業員との雇用契約書に、会社が配転を命ずることができる旨の定めが必要です。この記載がない場合には、会社が配転命令を出すことはできません。実際には、大半の就業規則では配転命令を出すことができる旨の規定があると思います。
就業規則などに定めがあれば、どのような場合でも配転命令を出すことができるのでしょうか。
それが違うのです。実は、ここからが重要なポイントになります。 まず、就業規則には配転命令の定めがあるにもかかわらず、雇用契約書で「職種を限定する合意」が雇い入れの際にあるケースです。
雇用契約書には、「従事する職種」の記載がありますので、必ず何らかの記載をすることになりますが、そうすると、配転命令を出すことができなくなるということでしょうか。
そうではないです。私が意図しているのは、例えば、入社時に専門職として入社しており、それ以外の部門の異動は全く想定されていないようなケースでは配転命令が認められなくなります。しかし、実際には、これが認められるケースはかなり少ないと思います。新卒ではほぼ認められず、中途採用者でも認められるケースは少ないと思います。また、入社してから特定の部署に長期間にわたり在籍していたという事実だけでは、この職種限定合意があったとはいいがたいと思います。裁判例で認められたものとしては、外科医として医院に入社して勤務してきたにもかかわらず、急に癌治療の部門に配転を命じられ、外科医の業務ができなくなったというケースがありますが、これは、医師の専門性がかなり細分化・特化しているという特殊性によると考えてよいと思います。
似たようなケースでは、「勤務地」の合意の論点があります。入社時に「勤務地を限定する」合意があるケースもありますが、これも実際には、入社時の経緯等に鑑みて、そのような合意が明確にある場合でなければ、認められにくいと思います。
なお、令和6年に労働法の改正があり、雇用契約の締結時(と有期の方の更新契約の締結時)には、必ず「就業場所」と「従事する業務の変更の範囲」を記載することになりました。将来的な異動の可能性を考えると、いずれも将来的には変更の可能性がある旨を明記しておくべきです。
普通の会社で注意すべきケースは、どのようなものでしょうか。
従業員が家庭の事情で難色を示してくるケースがあります。これはよくあります。
それにはいろいろな理由があると思います。例えば、自宅を購入したばかりである・子供の学校を転校させたくない・自分が持病を抱えている・共働きで小さい子供がいる・家族の介護が必要であるといった理由が出てきそうです。
これらは、いずれも職種というよりは、勤務地が変わることが論点になるケースが多いと思います。そのため、ここでは、転勤を拒否できるかどうかという観点で説明します。裁判例は様々なものがありますが、個別の事実関係による部分もありますので、ここでは細かい説明はカットしまして、大まかない方向性だけ説明します。概ね以下のようなイメージになります。
・自宅を購入したばかりである → 配転命令を拒否できない
・子供の学校を転校させたくない → 配転命令を拒否できない
・自分が持病を抱えている → 現時点で通院している医院でなければ治療が難しいような難病である場合には、配転命令を拒否できる
・共働きで小さい子供がいる → 法律で認められている育児休業中は配転命令を拒否できる。それ以降は原則として配転命令を拒否できない
・家族の介護が必要である → 法律で認められている育児休業中は配転命令を拒否できる。それ以降も実際に当人が介護しなければならない事情があれば、配転命令を拒否できる
会社としては、特定の従業員だけを特別扱いすることができないという点もあるので、単に「嫌だから」という理由で転勤を拒否することはできないということですね。
そうです。その点は、裁判所もバランスをとって判断していると思います。例えば、介護は人の生命にも関わる事柄ですから、配転命令の有効性は慎重に判断することになります。
そうすると、会社の裁量が広く認められるのでしょうか。
その点で会社が注意しなければならない点があります。会社が配転命令をするときには、「この従業員に配転・転勤をしてもらう必要がある」ことを説明できるようにする必要があります。例えば、露骨なケースではありますが、特定の従業員を退職に追い込みたいからといって、業務上の必要性がないのに、何もすることがないような部署を作って異動させたりすることは、認められません。過去にも、このような「追い出し部屋」的なケースが報道されたこともありますね。
これは過去に報道で見たことがありますが、その背景が理解できました。ありがとうございます。
最後に繰り返しになりますが、先ほどお話しした令和6年の法改正がこの論点にどのような影響を与えるかはまだ不明瞭なところがあります。そのため、この法改正の個所は、会社としては軽視できないところです。新しい改正なので、記載方法が分からない場合には、専門家に相談するほうが良いと思います。
監修者
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