企業法務コラム
残業代を支払う対象とは -労働者とはどのような者をいうのか
更新日:2023/12/22
1. 労働者とは?
業務に従事する者全てに対し、労働法が適用される訳ではござません。例えば、解雇の問題や残業代の問題はいずれも労働法が適用される場合の法律問題です。そして、労働法が適用される前提として、業務に従事する者が労働法上の「労働者」にあたるか否かを検討することが必須となります。
「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいいます。より細かく言えば、①使用者の指揮命令下で労務を提供し、②その労働の対価を支払われる者をいいます。
「労働者」にあたるか否かは、労働基準法をはじめとする各種労働法規の適用を受けるかを左右するものであり、例えば、業務に従事する者に対し、残業代を請求したり、年次有給休暇を取得する権利等が与えられるか否か、あるいは解雇の問題が生じるか否かは、いずれも、その業務に従事する者が「労働者」であることが当然の前提となります。
従って、これらの権利義務関係が発生するか否かを考えるにあたり、「労働者」であるか否かは、いわば出発点の問題です。
2. 使用者の指揮命令下で労務を提供しているか否かはどのように決まるか
労働者であるか否かを分ける重要な判断基準が「使用者の指揮命令下で労務を提供しているか否か」というものです。これは様々な要素が総合的に考慮されて判断されます。
その判断要素のうち大きなものとしては、
- ① 仕事の依頼への諾否の自由
- ② 業務遂行上の指揮監督
- ③ 時間的・場所的拘束性
の要素が挙げられます。
①労働者の場合には、仕事の依頼への諾否の自由がないと考えられており、その自由がなければ労働者性が肯定される方向に考慮されます。すなわち、使用者から仕事を依頼された場合には、その依頼を選択したり、拒否したりすることが原則としてできない点に労働者の特徴があります。
次に、②業務の遂行にあたって、使用者がその指揮監督をする実態があればあるほど労働者性が肯定される方向に考慮されます。どのようにその業務を遂行するのかについて与えられる裁量が狭いのが労働者の特徴です。
また、③業務に従事する時間や場所が使用者によって決められていればいるほど、労働者性が肯定される方向に考慮されます。雇用契約上、所定労働時間や勤務地が定められているのもこのためです。
これらは代表的な考慮要素に過ぎません。が、これらを総合考慮して労働者性の有無が判断されます。
3. 労働の対価を支払われているか否かはどのように決まるか
労働者であるか否かの判断基準として、もう1つ重要なものが「賃金を支払われる者」であるかという問題があります。
賃金は出来高ではなく、あくまで労務を提供したことによる対価として支払われるものをいいます。従って、業務に対する報酬が、業務に従事する者による労務提供の時間(量)を基礎として計算され、その結果による報酬の増減が小さければ小さいほど労働者性が肯定される方向に働きます。すなわち、労働者といえるためには、労働の結果に対して報酬が支給されるという実態ではなく、労務を提供した時間(量)に対して対価を支給されている実態が重視されます。
例えば、ある仕事を完成したことに対する出来高しか支給されていないのであれば、労働というよりは、請負や委託の性質を帯びることになります。そして、請負や委託という判断がなされる場合には、残業代が発生する前提を欠くこととなります。
また、賃金といえるか否かのその他の判断要素として、源泉徴収がされているか、各種社会保険料の控除がなされているかという点も考慮されます。源泉徴収がなされていたり、社会保険料を一部負担させている場合には労働者性が肯定される方向に働きます。
監修者
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