企業法務コラム
裁量労働制と2024年4月改正
更新日:2024/10/22
東京・神戸・福岡・熊本・長崎・鹿児島に拠点がある弁護士法人グレイスの労働法コラムです。
今回のテーマは、裁量労働制についてです。
今回は、裁量労働制について聞いていきたいと思います。
裁量労働制とは、業務の性質上、業務の遂行方法・勤務時間等を労働者の裁量に委ねることで、実労働時間ではなく、予め定められた労働時間で算定する制度です。
裁量労働制には、種類があると聞いたことがあります。
そのとおりです。平成10年までは、業務の専門性が重視される「専門型裁量労働制」しかなかったのですが、新たに事業運営に携わる労働者に関する大企業向けの「企画型裁量労働制」が導入されました。
ただ、実際のところ、利用のほとんどは「専門型裁量労働制」の方ですので、今回はそこにフォーカスしてお話ししましょう。
専門型裁量労働制は、どういった業務ならできるのでしょうか。業務を労働者の裁量に委ねるといっても、ちょっと抽象的でわかりませんね。
実は、導入できる業種は19種のみです。なお、令和6年4月1日から、M&Aアドバイザリー業務も追加されます。
我々、弁護士も対象業務ですし、会社でよくある例としては①新商品若しくは新技術の研究開発、②情報処理システムの分析・設計等です。例えば②は、システムエンジニアを含むことがありますが、プログラマーは含みません。19種に当たるか否かは、労働実態から見て、客観的に裁量があるかが重要になります。
詳しくは、次の厚生労働省のウェブサイトをご覧になってください。
専門業務型裁量労働制 厚生労働省労働基準局監督課 >
何故、エンジニアは含まれることがあり、プログラマーは含まれないのですか。
それは、業務の性質上、労働者の裁量に委ねることが前提となっている業務か否かの違いです。エンジニアは、システム開発を行う技術職であるため、会社からあれこれ指示するよりも本人の裁量に任せることが多い業務を担当する一方、プログラマーは基本的に指示に基づいて入力を行う業務を行うものと考えられるからです。エンジニアであっても、例えば納期がごく短いなど裁量に欠くようなものでは、裁量労働制には適しません。
そういうことなんですね!導入の手続は、具体的にどうすればいいのですか。
事業場ごとに、過半数労働組合や労働者の過半数代表者との間で労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届出する必要があります。
要注意点として、「事業場ごと」であるため、本社と支社で個別に行う必要がある点は見落としてはいけません。過去に、支社だけ労使協定の締結を怠ってしまったことで、訴訟に至ってしまった事例があります。
残業代を減らそうとして専門型裁量労働制を導入したのに、訴訟になってしまっては困りものですね。
労使協定の内容としても、以下の内容を定める必要があります。特に、2024年4月1日に改正があるため、この改正に適合させないと現在有効な労使協定も、同日以降は無効となりますので注意が必要です。
① 対象業務
② 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関して、労働者に具体的な指示をしないこと
③ みなし労働時間
④ 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
⑤ 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
⑥ 制度の適用にあたって労働者本人の同意を得ること(2024年4月1日から)
⑦ 制度の適用に労働者が同意しなかった場合に不利益な取扱いをしないこと(2024年4月1日から)
⑧ 制度の適用に関する同意の撤回の手続(2024年4月1日から)
⑨ 協定の有効期間(3年以内が望ましいとされています。)
⑩ ④から⑦について、労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間中とその満了から3年後まで保存すること(⑥・⑦は2024年4月1日から)
この手続が、適切に行われていない会社が散見されますので、注意が必要です。また、実務上は、就業規則にも定めることにより、従業員に対して周知を行います。
これは、会社による自力導入は難しそうですね…。専門家の助力を要しそうです。
そうですね。裁量労働制の対象となる業種は、その専門性から基本給が高く設定されていることが多く、何らかの抜けがあって残業代請求をされようものならば、請求額は膨大になります。効果的に制度を利用するためには、必ず労働法務に強い弁護士の監督のもと行った方がよいですね。
それでも裁量労働制を導入できれば、残業代を支払う必要がなくなるのですよね。
全く支払わなくてよいわけではありませんが、相当程度圧縮することはできます。
残業代を支払う必要があるのは、以下の類型です。
①みなし労働時間が8時間を超えている場合(実労働時間ではありません。)
②深夜労働や法定休日労働
深夜労働や法定休日労働は、裁量労働制でも適用があるんですね…。みなし労働時間は、どのように決めればよいのですか。
裁量労働制の労働時間は、1つの目安としては所定労働時間となるでしょうが、裁量労働制の導入前の平均的な労働時間を定める方法も一般的です。
だから、みなし労働時間が8時間を超える場合があるのですね。ところで、労働者に裁量を委ねて、指示しないということは、会社は労働者に単に仕事を任せておけばよいということでしょうか。
いい質問ですね。これはよく陥りがちな落とし穴であって、会社は、労働者の健康・福祉管理や労働安全衛生法上の医師による面接指導の前提となる労働時間の把握義務は免れません。あくまで、出社時間を指示するなどができない等に留まります。
なるほど。いくら労働者の裁量といっても、健康・安全に関することは会社側の管理下に置く必要があるのですね。
裁量労働制には、会社において残業代を圧縮できる可能性がありますが、残業代の圧縮ばかりを目的とすると違法と判断されるリスクが高くなります。
例えば、健康管理をおろそかにする、実態とかい離したみなし労働時間の設定をする、業務遂行や勤務時間に関する指示をする、利用できる業種でないものに適用してしまう等、適切な運用には多数の落とし穴があります。
特に、2024年4月1日の改正に対応することを忘れてしまわないように注意が要りますね。ありがとうございました。
監修者
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