企業法務コラム
変形労働時間制について
更新日:2024/07/30
東京・神戸・福岡・熊本・長崎・鹿児島に拠点がある弁護士法人グレイスの労働法コラムです。
今回のテーマは、変形労働時間制についてです。
はい。今回は、変形労働時間制について学んで行きます。
変形労働時間制の内容を正確に理解している会社は少なく、変形労働時間制を採用することにより、残業代を支払わなくてもよいと誤解しているケースもあります。変形労働時間制は、導入するにあたって、いくつかの手続を経る必要があります。
どのような手続が必要になるのですか。
変形労働時間制にはいくつかのパターンがありますが、以下では、もっとも導入比率が高いと思われる「1年単位」の変形労働時間制を例として解説をします。
分かりました。労働条件を変更する場合には、労使協定で変更することが一般的だと思いますが、労使協定でどのような点を定める必要があるのですか。
よく分かっていますね。労使協定では、以下の点を定める必要があります。
1.対象となる労働者の範囲
2.対象期間
3.特定期間(対象期間のうち特に繁忙が予想される期間)
4.労働日
5.当該労働日毎の労働時間
6.有効期間
労使協定以外には、何か定めておく必要のあるものはあるのですか。
就業規則で以下の点について定める必要があります。
① 変形労働時間制の内容
② 始業・就業時間
なるほど。変形労働時間制を採用すれば、労働者を何時間でも働かせることができるのですか。
1年単位の変形労働時間制は、労働者の生活設計に影響を与えるものですので、労働基準法上、幾つかの上限が定められています。具体的には以下のようなものがあります。
① 連続労働日数:最大6日
② 労働時間の上限:1日10時間、1週52時間
③ 週48時間を超える週は連続3週間以内
④ 週48時間を超える週は3ヶ月に3週以内
⑤ 1年間の実労働日数上限:280日
そうなのですね。変形労働時間制を採用するのに向いているのはどのような会社なのですか。
1年単位で見たときに、繁閑の差異が季節的に生ずることが予定されている業種です(例えば、デパートや私立学校等)。このような業種は割増賃金の支払いを削減でき、1年単位の変形労働時間制を採用するメリットがあります。すなわち、繁忙期については、あらかじめ、労働基準法が認める上限内(1日あたり10時間、1週あたり52時間)で、1週あたりの所定労働時間を長く(例えば50時間)しておけば、労働基準法が定める年間の総枠内に収まる限り、割増賃金を支払う必要はなくなります。
割増賃金を支払う必要性がないのは、企業にとってはありがたいですね。気を付けるべき点等はありますか。
気を付けなければならないのは、1年単位の変形労働時間制においては、1年間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間以内に収まっている必要があり、超過した場合には、割増賃金を支払う必要がある点です。つまり、繁忙期の所定労働時間を長くすることと引き換えに、閑散期の所定労働時間は、労働基準法の原則である1日8時間よりも短くすることにより、1年単位の変形労働時間制を実効的に活用することが可能になります。
忙しい時期だけではなく、閑散期も明確にある必要があるのですね。採用するのは意外に難しそうですね。その他にも注意点はありますか。
1年単位の変形労働時間制を採用するにあたり、勤務日・休日等を事前に固定する必要がありますので、勤務の柔軟性は損なわれる点には注意が必要です。実務上は、1年単位のカレンダーにより、勤務日・休日をあらかじめ定めることが多いですが、実際には、このカレンダーの内容がほぼ遵守されていないケースも見受けられます。これでは、1年単位の変形労働時間制が適法に運用されていないことになってしまいます。
なるほど。適法に運用されていないこともあるのですね。他に気を付ける点等はありますか。
繁忙期についても、節約することができる時間外手当は、現実的には、最大で1日あたり2時間分にとどまります。会社の繁忙期が、長くてもどの程度になるかを検証する必要がありますが、繁忙期の期間次第では、1年単位の変形労働時間制を継続することにより、人事関連のコストが大幅に削減できるという保証はないため、むしろ、1年単位の変形労働時間制を導入しない・廃止することも検討に値するでしょう。
気を付けるべき点が多いですね。勉強になりました。ありがとうございました。
監修者
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