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企業法務コラム

発信者情報開示請求が棄却される場合について

投稿日:
更新日:2023/12/21

1.発信者情報開示請求が認められる要件

発信者情報開示請求はプロバイダ責任制限法を根拠になされる請求です。

プロバイダ責任制限法第4条では、①侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであり、かつ、②当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときに、発信者情報開示請求を認める旨、規定しています。

これらの要件のうち①を権利侵害性、②を正当事由と言うことがあります。

②が否定されることは稀ですので、発信者情報開示請求が認められるか否かの分水嶺は①の判断によると言えます。

2.名誉権侵害を理由とする場合

⑴同定可能性

ここでは名誉権が侵害された場合を想定して、具体的に解説をしていきます。

まず、名誉権侵害を理由に権利救済を求めることは出来るのは、権利を侵害された本人となります。

そのため、「投稿記事に記載されている人物」と「権利救済を求める人物」が同一であることを主張する必要があります。

これを「同定可能性」の要件と言います。

投稿記事に本名が記載されているような場合には明らかですが、インターネット上では隠語が用いられることも多く、同定可能性の立証がネックとなることも少なくはありません。

本名の記載がない場合には、事案毎に工夫して立証を行うことになります。

例えば、ビジネスネーム等を使用されている場合には、①企業HPや②給与明細等によって、当該ビジネスネームを用いる人物が権利救済を求める人物と同一であることを立証していくことが必要となります。

⑵ 権利侵害性

名誉権の権利侵害性の類型として①事実摘示型と②意見・論評型の2類型があります。

②の意見・論評型の場合には、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したもの」でない限り、違法とはなりません。

そのため、当該投稿記事がどちらの型であるのかは極めて重要な要素となります。

①事実摘示型の投稿記事の場合には、ア 人の社会的評価を低下させること イ その投稿内容に公共性のないこと ウ 投稿が公益目的をもってなされていないこと エ
その投稿が真実でないことの各要件を立証する必要があります(発信者情報開示の仮処分を求める場合)。

特に争点となるのは「ア 人の社会的評価を低下させること」の判断ですが、この立証方法も複雑なものとなります。

インターネット上の名誉毀損事件に特有の要素として、当該記事が投稿されたサイトの特徴も十分に意識して主張しなければならない点があげられます。

例えば、特定のスレッドの中の1つのリプライによる投稿が問題となっている場合、スレッドのタイトルや他の投稿とも合わせて総合的に判断することで、権利侵害性を主張することもあり得ます。

3.まとめ

以上、本記事ではインターネット上の投稿記事に関し、名誉権侵害を理由に発信者情報開示請求を行った場合の流れについて触れてきました。

発信者情報開示請求が棄却される場合としては①意見・論評型の投稿記事と判断され、そもそも判断枠組み自体に困難があった場合②事実摘示型としても、「投稿記事に記載されている人物」と「権利救済を求める人物」が同一である、つまり、同定可能性があると立証出来なかった場合③当該記事が人の社会的評価を低下させることを他の投稿内容等から立証出来なかった場合等があげられます。

いずれの判断においても、当該事案ごとに応じた投稿内容・サイトの特性・有している証拠等をしっかりと認識した上、どう主張構成を組み立てるのかにより、同じ投稿記事であっても、結論が分かれることが十分にあり得ます。

適切な主張を行い、適切な判断をされるため、是非とも専門家にお声掛けください。

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【著者情報】

企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)

九州大学大学院法学研究科修士課程 修了

米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業

三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務

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監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

本店所在地
〒105-0012 東京都港区芝大門1丁目1-35 サンセルモ大門ビル4階
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