企業法務コラム
株主総会における株主の意思確認と株主総会運営のルール ─ 関西スーパー統合事案 ─
更新日:2022/01/26
株式会社関西スーパーマーケット(伊丹市、以下「関西スーパー」)とエイチ・ツー・オーリテイリング株式会社(大阪市、以下「H2O」)傘下の食品スーパー2社(イズミヤ株式会社・株式会社阪急オアシス)との経営統合に関する臨時株主総会決議の有効性が争われた裁判は、令和3年12月14日、最高裁が特別抗告を棄却し、同決議を有効とした高裁判決を支持したことにより、終結しました。
上記裁判は平成28年頃から、関東圏を中心に食品スーパーを展開するオーケー株式会社(横浜市、以下「オーケー」)が関西スーパーの株式の取得を始め、H2Oがこの買収に対抗するホワイトナイト(*1)として株式の引受先となったことに端を発するものです。
関西スーパーはオーケーに対抗するため、友好会社であるH2O傘下食品スーパー2社に自社株を取得してもらうべく、各株式交換(*2)を実施するため、臨時株主総会を開催しました。
当該株主総会において、ある株主が各株式交換に賛成の議決権行使を事前に行っていたものの、株主総会に出席して棄権票(白票)を投じました。本来であれば、実際の株主総会決議で票を投じている場合、事前に行使された議決権は無効となり、株主総会決議での棄権票が有効となります。
しかしながら本件は、議場閉鎖後、当該株主が上記ルールを誤解しており、その真意は各株式交換に賛成であったことを申し出たため、関西スーパー側が当該株主の投票を賛成票として取り扱いました。
これに対して、オーケーが関西スーパーとH2O傘下食品スーパー2社との各株式交換を仮に差し止めるよう申立てを行いました。
令和3年11月22日の神戸地裁ではオーケーによる仮の差止めの申立てを認めたのに対し、同年12月7日の大阪高裁、同月14日の最高裁ではこれを認めませんでした。
本件における裁判所の判断については、様々な指摘がありますが、本件を「株主意思の名の下に株主総会の運用ルールの一部緩和化を認めた裁判例」と一般化することは避けるべきでしょう。本件は株主意思を確認した関西スーパー側の対応に恣意的運用と理解出来る点はなく、結論として株主総会決議の有効性を認めた事案で、あくまで事例判断と理解すべき点に注意が必要です。
本件は株主総会運用ルールに関し、司法の判断も揺れ動く、世間の耳目を集める事案となりましたので、ご紹介させていただきました。
*1:ホワイトナイト…
敵対的買収に対する防衛策の1つ。敵対的買収を仕掛けられた企業が、友好的な買収者(ホワイトナイト。日本語で白馬の騎士を意味する。)に株式を取得してもらうことにより、敵対的買収者に株式を買い占められることを防ぐ手法。
*2:株式交換…
買収防衛の場面では、買収されることを防ぎたい株式会社Bの株式と、友好関係にある株式会社A(ホワイトナイトないしその関連会社等)の株式を交換し、株式会社Bの株式すべてを友好会社Aに取得させることで、敵対的買収を防ぐ手法として使用される。
【著者情報】
播摩 洋平弁護士
企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)
九州大学大学院法学研究科修士課程 修了
米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業
三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務
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