企業法務コラム
就業規則作成・変更の手続と変更内容の注意点
更新日:2024/08/27
東京・神戸・福岡・熊本・長崎・鹿児島に拠点がある弁護士法人グレイスの労働法コラムです。
今回のテーマは、就業規則作成・変更の手続と変更内容の注意点についてです。
今回は、就業規則作成・変更の手続と変更内容の注意点がテーマです。就業規則は、どんな場合に新設したり、変更したりするのですか。
使用者は、1つの事業所に常時10人以上の労働者を使用する場合、就業規則を新たに作成しなければなりません(労働基準法89条)。また、就業規則が既にあっても、売上原価や人件費の高騰など、経営上の必要に迫られて、就業規則を変更することはよくあります。
常時10人以上には、アルバイトやパートタイマーも含まれるのですか。
はい。パートタイマーなど、いわゆる短時間労働者も含まれます。勘違いしやすいのですが、派遣労働者は雇用主が別であるため、10人のうちに含みません。また、「常時」とは、繁忙期だけに臨時で雇い入れる人は含まないことを意味します。
なるほど。事業所内の労働者が10人に達しそうになったら、就業規則の新設を検討しないといけませんね。
ただ、就業規則の作成や変更の手続で具体的に何をすればよいのか、イメージがつきにくいですね。
就業規則を作成・変更するためには、①「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においては、その労働組合」、②「労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」の意見を聴かなければならないとされています(労働基準法90条1項)。
後者(②)は、しばしば「過半数代表者」と呼ばれます。
変更後の就業規則を届け出る際には、労働組合又は過半数代表者の意見書を記した書面を添付する必要があります。
意見書はどんな形にすればよいのでしょうか。
いいものがありますよ。
東京労働局が書式を公開してくれていますので、この書式に記載すれば大丈夫です。
リンク> 東京労働局 様式集
これで、就業規則の変更は怖くないですね!
待ってください。変更内容によっては大きな落とし穴があります。
使用者は、原則として、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働条件を変更することができないのです(労働契約法9条)。
これは、「不利益変更」と呼ばれます。
また、不利益変更は、既にある就業規則を変更する場合だけでなく、新しく作成する際にも既存の労働条件を変更することに変わりはありませんから、問題となります。
それでは、労働者は自分に不利益になるような変更に合意するとは考えにくいですから、就業規則の不利益変更はほとんどできないことになりませんか。
そこで、労働契約法10条は、例外的に、不利益変更であっても、その内容が合理的であれば変更後の内容が適用されるものとしています。
逆に不合理なものであれば、変更後の内容は適用されないのです。
例えば、「コスト削減の必要性もないけど、明日から賃金30%カット!」とか「一部の労働者だけ気に入らないから賃金カット!」とかは許されないんですね。
不利益変更が合理的であるかはどのように判断するのですか。
労働基準法10条前段では、次の5つが合理的であるか否かの判断要素とされています。
①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他就業規則の変更に係る事情
ただし、実際には①~⑤の要素の総合判断ですので、ケースバイケースであることが多いです。具体的な裁判例を見てみましょう。
お願いします。
就業規則の変更が有効とされた事件では、正社員に対し、営業成績給を廃止する就業規則の変更の合理性が争われ、変更の必要性の高さや不利益への配慮から、合理性が認められるとされたものがあります(野村アーバンネット事件。東京地裁令和2年2月27日・労働判例1238号74頁)。
営業成績給の廃止で、労働者はどのくらいの不利益を受ける事案だったのですか。
人によっては、旧人事制度より1割以上、賃金が減少する不利益があったようです(①)。
しかし、本件では、複数の異なる給与体系があり、統一的な人事制度を導入する必要性があったこと(②)、人材育成等の雇用施策等と深くかかわるものであること(②)、新人事制度では昇進の可能性があり、不利益が減少・消滅し得るものであること(③)、従業員全体の賃金の総原資を減らすものではないこと(③)、複数の担当者により評定制度の恣意的な運用を避ける制度があること(③)、従業員に対し、複数回にわたり説明会を開催して、過半数代表者からも異議がない旨聴取していること(④)を総合考慮しています。
一部労働者の賃金の減少額は小さくなく、不利益も相当程度ありますが、それ以外の事情も評価され、就業規則の不利益変更に合理性が認められた事例です。
逆に、不利益変更に合理性がないとされた事例はあるのですか。
55歳以上の行員の賃金を33~46%もの大幅減額した事例では、不利益が極めて重大(①)であって、就業規則の変更の合理性がないものと判断されました(みちのく銀行事件。最高裁平成12年9月7日・民集54巻7号2075頁)。
労働者にそれだけの不利益を負わせるのは驚きですね。55歳以上を対象としたのは、理由があったのでしょうか。
金融機関同士の競争が激化している中で、労働者の高年齢化が経営課題となっていたことが理由のようです(②)。一方で、中堅層の賃金は格段に改善されていることから、賃金削減の経営上差し迫った必要はないと判断されています(②)。
また、賃金を削減されても、労働時間の変更はなく、職務も同じであったこと(③)、賃金削減の代償措置である退職金増額は、適用されない労働者がいたこと(③)、経過措置もないこと(③)が重視されています。
労働組合等との交渉はどうだったのでしょうか。
本件では、労働組合の同意はありました(④)。
そうはいっても、55歳以上の労働者という特定の層のみに大幅な負担を負わせる変更となっていることからすれば、不利益変更は合理性がないものといえるでしょう。
たしかに、賃金面で3~4割もカットされてしまって、しかも、55歳以上の人だけが対象、その他の労働者の賃金は増額となると、対象者はやるせないですよね。
このように、就業規則の不利益変更は、多角的な検討が必要になります。後々、裁判などに発展しやすい部分ですので、不利益変更にあたっては弁護士の意見を聴いた方がよいでしょうね。
就業規則の作成・変更のイメージが浮かんだ感じがします。ありがとうございました。
監修者
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