企業法務コラム
弁護士からみる雇用契約書の必要性について解説
更新日:2024/08/20
東京・神戸・福岡・熊本・長崎・鹿児島に拠点がある弁護士法人グレイスの労働法コラムです。
今回のテーマは、雇用契約書の必要性についてです。
そもそも、従業員を雇用する際に書面を取り交わす必要があるのでしょうか。
少なくとも書面で労働条件を示すことは必要です。労働基準法という法律では、会社が従業員を採用する際には、書面で明示する必要のある事項が定められています。そして、実務では、「雇用契約書」又は「労働条件通知書」を使用することが一般的です。法律で定められている事項が網羅されているのであれば、いずれを使用しても問題はありません。
書面が2つのパターンあるということですが、雇用契約書と労働条件通知書とは何が違うのですか。
雇用契約書の定義として、法律で明確に定められているものはありません。強いていうと、雇用契約書は、文字通り契約書ですので、会社と従業員の双方が署名捺印又は記名押印を行い、双方が原本を1部ずつ作成する方式になります。他方、労働条件通知書は、会社が労働条件を記載した書面を一方的に従業員に交付するもので、原本は1部のみ作成されることになり、その原本は従業員が保有することになります。
なるほど、違いは理解しましたが、雇用契約書と労働条件通知書のどちらを使用した方が良いのでしょうか。
結論からいうと、雇用契約書のほうが望ましいといえます。理由は、雇用契約書は従業員も署名捺印をするので、従業員が雇用契約書に書いてある内容を確認して同意したという証拠になるためです。そのほかの理由としては、労働条件通知書の構成が挙げられます。労働条件通知書は、厚生労働省のウェブサイトでひな形が公表されており、これが書式としてほぼそのまま使用されているケースが大半です。しかし、労働条件通知書に記載する必要がある事項は、法律で必要になる最低限の項目です。それ以外の項目を網羅するには、構成においてより柔軟性のある雇用契約書が適しています。
雇用契約書のほうが望ましいということですが、そもそも雇用契約書がないとどんな不都合があるのでしょうか。
まず、雇用契約書を交わさないと、入社時の労働条件が不明確になることに加えて、従業員が労働条件に同意していたかについて分かりません。そのため、契約書を作成しないと、入社時の労働条件について物理的に証明するものがないとしてトラブルの元になります。
次に、従業員に会社のルール(会社の服務規律に関する事項)は、労働条件通知書の必要的な記載事項とはなっていません。しかし、服務規律に関する事項は、会社の運営の基本的なルールを構成するものですので、実務上では重要な事項です。そのため、このような重要な事項を従業員に認識してもらえないという不都合も考えられます。もっとも、雇用契約書に会社の運営の基本的なルールを記載すること難しく、詳細は就業規則に記載することが多いです。しかし、就業規則で具体的に定めていても、就業規則を従業員に適切に示していない会社も散見されます。就業規則が適切に従業員に周知されていない場合には、就業規則の効力が及ばないと判断されるという不都合が生じえます。そのようなケースに備えて、雇用契約の条件及び就業規則を備え付けている場所を書面化しておくことは重要です。
雇用契約書が必要なことはよくわかりました。実際に雇用契約書を作るにあたってどんなことに気をつければいいですか。
確かにどのような契約書にすべきかは悩むところですね。雇用契約書の内容には、労働基準法に決められた事項も含め、以下のような事項を記載おくことが重要です。記載事項の例を以下に記載しますので参考にしてみてください。
(1)従業員のパターン
・ 正社員(無期雇用契約)
・ 契約社員(有期雇用契約)
・ パート/アルバイト
(2) 具体的な労働条件に関する事項
[雇用期間]
・ 有期/無期の別(有期の場合には契約期間の満了日・再雇用の有無/基準)
・ 試用期間
・ 定年(再雇用の基準)
[労働時間]
・ 出勤日
・ 休日
・ 休暇
・ 始業時刻/終業時刻
・ 休憩時間
・ 残業の有無/内容
[給与]
・ 基本給
・ 各種の手当
・ 割増賃金の計算(どの手当が基準内賃金として割増賃金の算定にカウントされるか/固定残業代の有無)
・ 賃金から控除される費目
・ 給与の締日/支払日
・ 昇給/降給
・ 賞与
・ 退職金
[人事異動]
・ 就業場所が特定の場所/業務に固定されているか
・ 配置転換/転勤の有無
[退職]
・ 退職申出の期限
・ 退職時に返還すべき資料/データの返還方法
ありがとうございます。大変勉強になりました。
監修者
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