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企業法務コラム

賃金未払いの類型とそのリスクとは

投稿日:
更新日:2024/09/03

東京・神戸・福岡・熊本・長崎・鹿児島に拠点がある弁護士法人グレイスの労働法コラムです。

今回のテーマは、賃金未払いの類型とそのリスクについてです。

相談者
相談者

退職した従業員から賃金が支払われていないとして会社に対して請求をするということをよく耳にします。賃金の請求といってもいろいろあると思うのですが、従業員からの未払賃金の請求とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

播磨先生
弁護士

確かに、従業員が会社に対して未払賃金の請求をしたといっても、それぞれの従業員によって事情が異なるため一様ではないですね。もっとも、その請求はいくつかの類型に分類することができます。

まず、典型的なパターンは、時間外労働に対する残業代を支払っていないというものです。労働基準法32条は、法定労働時間を「1日8時間、週40時間」と定めており、会社が従業員をこれらの時間を超えて働かせた場合、当該労働時間に応じた時間給に加えて、通常の1.25倍から1.5倍の割増賃金を支払わなければなりません。この割増賃金は、深夜労働や休日労働の場合も発生します。

そして、このパターンの事案も、①労働をしていた時間帯に争いがある、②特定の時間が労働時間に該当するか否かに争いがある、あるいは③残業代の支払いが必要な場合であるかに争いがある(固定残業代制等を理由にすでに支払い済みである)といった分類もできます。

その他のパターンとしては、会社が従業員に対して何らかの債権を有しているとして、その債権額を給与から天引きしてしまっているというものがあります。労働基準法は給与の全額払いを原則としており、会社側が従業員に対して債権を有している場合であっても、会社が一方的に相殺をして賃金の支払いを免れることを規制しています。裁判例では、従業員が自由な意思に基づいて相殺に同意した場合は許されるとしていますが、当該同意が従業員の自由な意思に基づくものであるかは厳格に審査される傾向がありますので注意が必要です。

相談者
相談者

なるほど。賃金が未払いという請求でも、いわゆる残業代の請求だけではないんですね、賃金請求の類型についてはわかりました。次に、仮に会社に賃金の未払いがある場合、会社に何かペナルティーが課されることはあるのでしょうか。

播磨先生
弁護士

まず、付加金という制度があります。労働基準法上では、裁判所は、割増賃金支払規定に違反した会社に対し、従業員の請求により未払割増賃金のほか、これと同一額の付加金の支払いを命じることができると規定されています。これは、会社による賃金の未払いが付加金による制裁が必要なほど悪質な場合に認められます。その結果、会社は未払い賃金だけでなく、付加金をプラスして支払わなければならなくなります。
なお、付加金の対象となる未払賃金は以下のものに限られます。

解雇予告手当(労働基準法20条1項)

休業手当(労働基準法26条)

時間外・休日労働等に対する割増賃金(労働基準法37条)

年次有給休暇中の賃金(労働基準法39条9項)

相談者
相談者

なるほど。事実上、未払賃金の2倍の金額を支払うことになるので、付加金の支払は会社にとって大きな負担ですね。ほかにも何かありますか。

播磨先生
弁護士

その他には、会社は、割増賃金が支払うべき日の翌日を起算日として遅延損害金をあわせて支払わなければなりません。

会社が従業員から未払残業代の請求を受けるときには、時効にかかるまでの過去にさかのぼって請求を受けることとなります。遅延損害金は、各賃金の支払日の翌日から年利3%(ただし、2020年4月より前に発生した賃金は年利5%)となります。また、賃金の支払いを受けないまま退職した場合、賃金の支払の確保等に関する法律6条により、退職日の翌日から14.6パーセントの遅延利息が発生します。残業代を2年分(2020年4月以降は3年)遡って請求を受けた場合、未払い賃金の元本のみで数百万円など高額になるケースがほとんどです。特に退職日以降の遅延損害金は利率が高いため注意が必要です。

相談者
相談者

付加金だけでなく、遅延損害金も退職後の利率の高さを考えると無視できないリスクですね。それ以外に会社が罰せられるといったことはありますか。

播磨先生
弁護士

あります。そもそも残業代を支払っていない、割増分を支払っていない、このような場合、労働基準法違反となります。そして、残業代未払いについては、同法119条が「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則を定めています。そして、罰則の対象者は代表者に限られません。条文は「法律に違反した者」と規定しておりますので、部下に違法な残業を命じている管理職も刑事責任を問われ得ることになります。

また、同法121条により会社そのものも刑事責任を問われ得る立場となります。刑事罰が会社に科せられる場合、懲役刑は存在せず、罰金刑が科せられることになります。罰金そのものの金額は低いですが、会社の社会的信用が棄損されて、結果として会社経営に深刻な影響が生じるおそれがあります。

相談者
相談者

未払賃金や遅延損害金の負担だけでも重いのに、刑事罰を受けてしまう可能性もあるとすると、会社にとって未払賃金の問題は会社の存続にかかわる重要な問題ですね。

播磨先生
弁護士

そうなんです。以上で説明したように、賃金未払いに伴い、会社が負う責任は重いものいえます。そのため、賃金を適切に支払うということは会社にとって非常に大切なことです。

相談者
相談者

ありがとうございます。大変勉強になりました。

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【著者情報】

企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)

九州大学大学院法学研究科修士課程 修了

米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業

三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務

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監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

本店所在地
〒105-0012 東京都港区芝大門1丁目1-35 サンセルモ大門ビル4階
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