企業法務コラム
契約の自動更新についての注意点
更新日:2024/10/23
自動更新の条項が付いた契約書
飛び込みの電話営業等を受け、お得な条件で、かつ、契約期間も短期であったことからそのまま契約を締結したということが一度はあるのではないでしょうか。
そして、その後、当初想定していた契約期間が経過した後に、意に反した請求を契約の相手方から受けたということはないでしょうか。
そこで、申込書や規約を確認すると、契約期間について自動更新条項が定められていたことに気づくこともあるかと思います。本コラムでは、このような事態が生じないよう契約期間に関する注意点を説明させていただきます。
契約期間に関しては、契約書等に以下のような条項が定められていることが一般的です。
「本件契約の有効期間は、●年●月●日から●年間とする。ただし、期間満了の●ヶ月前までに、甲及び乙のいずれからも契約を終了する旨の書面による申出がなされない場合は、同一条件にてさらに●年間延長されるものとし、以後も同様とする。」
自動更新に関する注意点
前提として、「ただし」以下が契約期間の自動更新を定めたものであり、このように自動更新を定めた条項は有効です。そして、同条項について注意すべき点は主に2つです。
まず、「期間満了の●ヶ月前」という点に注意する必要があります。ここに定める期間内に契約を更新しない旨を契約の相手方に連絡をする必要があります。そのため、契約締結日及び契約終了日だけでなく、契約を終了する場合にいつまでに連絡をする必要があるかの管理を行っておく必要があります。
次に、更新拒絶の申し出方法についても注意が必要です。以上の例のように「書面」と方法が限定されている場合には、口頭で契約の相手方に伝えるのでは不十分ということになります。そのため、申し出の方法についても、契約締結前に確認しておき、書面などに限定されている場合には、その当否について検討し、場合によってはメール等による方法でも申し出が可能になるよう契約書を修正する必要があります。
自動更新を無効にできるのか
最後に、事業者間の取引においては、申込書等に自動更新に関する規定があるとは知らなかったといった言い分は基本的には通用しません。事業者が契約を結ぶ以上、当該契約によって当事者双方が拘束されるのはやむを得ない、事業を営む以上契約内容を理解していなかったで済まされない(そうした言い訳を許した場合、世の中の取引を巡る法律関係が著しく不安定になってしまう)という考慮があるためです。
そのため、契約を締結する際には契約期間に関する条項を確認することは必須といえます。もし、契約期間や自動更新等不安がございましたら、ぜひ契約締結前に弊所にご相談いただければ幸いです。
自動更新条項と中途解約権
契約書に自動更新条項が入っていた場合は、まずは、契約書の中に中途解約権を規定する条項がないか確認しましょう。契約書に中途解約権があれば、原則的に、契約の中途解約をすることができます。
他方で、自動更新条項はあるものの、当方側の中途解約権が規定されていない場合には、あえて中途解約権を認めていないとの判断がなされ、基本的には中途解約をすることができないこととなります。これは、民法上、契約当事者は民法に従わずとも自由に契約をすることができるという契約自由の原則があるためです。
自動更新条項を無効にできる可能性のあるケース
とはいえ、仮に契約書上、中途解約権が認められていなかったとしても、諦めるのはまだ早いです。自動更新条項を無効にできる可能性のあるケースとしては、以下のような理屈に基づくものが挙げられます。
錯誤・詐欺
そもそも契約時に、契約内容について認識の誤り(錯誤)があったり、相手方による詐欺行為があったりした場合には、錯誤又は詐欺を原因に契約自体を取り消すことができます。自動更新後に有料サービスへの移行があることについて錯誤・詐欺がある場合などがあり得ます。
これらの錯誤・詐欺については、自動更新条項のみならず、契約の重要な部分について存在すれば、契約を全体として取り消すことができる点に注意が必要です。
不能の停止条件
更新の拒絶のために、達成不可能といえる条件が付されている場合には、自動更新条項が無効となり得ます。事実上達成できないような条件を付して自動更新を選択することしかできなくさせるものは無効とされるのです。
例えば、自動更新を止めるために事実上相手方の許諾を得る必要がある場合・遠距離の相手方会社に直接訪問しなければ更新拒絶できないなど、更新拒絶の意思表示が事実上困難な方法でしかできないものとされている場合などがあげられます。
公序良俗違反
また、自動更新条項が当事者の一方に著しく不利な内容である場合など、社会通念上許容されないような条項であったときは、公序良俗に違反するものとして自動更新条項が無効となります。
例えば、契約の更新拒絶者に対して多額の違約金を課するなど、事実上自動更新を拒絶できないような条件を加えるような条項であった場合には、公序良俗違反で無効とできる場合があります。
公序良俗違反についても、自動更新条項だけではなく、契約条項の重要な部分に公序良俗違反となる部分があれば、契約全体が無効となる可能性があります。
無効となった裁判例
上述したような理屈によって自動更新条項が無効とされた裁判例も、以下のとおり存在しています。
無料求人広告の有料への自動更新と詐欺取消(那覇簡判・令和3年10月21日)
那覇簡裁令和3年10月21日判決においては、広告会社の無料求人広告が自動更新後に有料契約に移行することを説明しなかった広告会社の行為が、詐欺(黙示的詐欺、沈黙による詐欺)に当たるとして、契約の取消しが認められています。
詐欺取消しによって自動更新条項が無効となる例は少ないので、貴重な先例といえます。特に、広告会社によくある説明の欠如に関し、沈黙による詐欺が認められることを示した点に、意義があります。
公序良俗違反による契約の無効(東京地判・令和元年9月9日)
東京地裁令和元年9月9日判決においては、広告会社の無料求人広告が自動更新後に有料契約に移行することを説明しなかったこと・求人広告の提供内容が明らかでなかったことから、契約全体を公序良俗違反として無効と判断しています。
自動更新条項のみならず、契約の重要な部分が不明瞭であったことから、社会通念上許容されないものとして、契約が無効となった先例といえます。本裁判例は、広告会社との契約前の協議内容、特に契約内容の説明が充分になされているか、契約内容が契約書上明確になっているか、といった点が重要であると示唆しています。
まとめ
自動更新条項に事後的に気づかれた状況でも諦めるのは早いかもしれません。
これらの先例を参考に、ご自身が利用されているサービスについて自動更新条項を無効とすることができるか検討することとなります。この検討のためには、法律専門家である弁護士の助言を得ることが適しているといえるでしょう。広告会社との契約前・契約時の協議内容も含め、細かな事情と共に、自動更新条項について専門的知見のある当事務所に、一度ご相談ください。
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