企業法務コラム
退職時の情報持出しと不正競争防止法
更新日:2023/11/21
弁護士:杉原 悠介
従業員が退職時に会社の秘密情報を不正に持ち出す事案がよくあります。持出しを行った従業員には、民事上の責任だけでなく、不正競争防止法違反という犯罪が成立します(不正競争防止法21条1項)。近時、不正競争防止法違反による摘発が増えています。
最高裁まで争われた有名な事案があります。大手自動車メーカーの従業員が転職直前に会社のサーバに保管されていたファイルを私物のハードディスクに複製しました。従業員は「不正な利益を得る目的」はなかったから無罪であるなどと争いましたが、懲役1年執行猶予3年に処せられました。最高裁は、転職の直前に複製を行ったこと(退職日の約2週間前)、業務遂行の目的による複製でないこと(複製したファイルを使用した業務は行われていなかった)、その他の正当な目的をうかがわせる事情もないことから、退職後に利用する目的であったと推認でき「不正な利益を得る目的」が認定できるとして有罪としました。典型的な退職時の情報持出し事例を最高裁が有罪と判断したことの意義は大きく、摘発が増加した一因といえます。
不正競争防止法違反が成立するためには、持ち出された情報が「秘密として管理」されていることが必要です(「秘密管理性」といいます。)。秘密管理性は実務上もよく問題となります。上記事案では、複製されたファイルが、アクセス制限のかけられたサーバー等に格納され、必要な情報セキュリティー上の指導等が十分に行われていたことから、秘密管理性が認められました。他方で、上記事案の従業員は、自動車製造過程の教本を複写して持ち出していたのですが、この教本については一審で無罪になっています(控訴されず無罪が確定)。教本には「社外秘」と表示されていたのですが、当該自動車メーカーの研修施設で研修生も自由に見られるようになっていたなど、社外秘となっていなかった他の教本と同様の方法でしか管理されていなかったとして、裁判所は秘密管理性を否定しました。
不正な情報持出しを防止するためにも、不正競争防止法の保護を受けるためにも、会社は、日頃から秘密情報の適切な管理を実践していなければならないのです。
監修者
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