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【東京都カスハラ防止条例】2025年4月施行の内容・罰則・補助金について解説【北海道・三重でも施行・検討】

投稿日:
更新日:2025/04/01

東京都の全国初となる「カスハラ防止条例」について

 2024年5月22日に、東京都が全国で初めて、カスタマー・ハラスメント(いわゆるカスハラ)に関するカスハラ防止条例を制定する方向で検討を始めたと報道されました。

 その後、同条例は2024年10月4日に東京都議会で可決・成立し、2025年4月1日から施行されます。

 業種等を限定しないカスハラ防止条例の制定は全国初であり、この流れから国や他の地方公共団体にも同様の対策が広がっています。

東京都の「カスハラ防止条例」の内容

 東京都のカスハラ防止条例は、まず「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」と規定し、カスハラ行為の一律禁止を明記しています(条例4条)。

 ここでいうカスハラとは、「顧客等(客)が就業者(従業員)に対し、その業務に関連して行う著しい迷惑行為(違法または不当な行為)であって、就業者の就業環境を害するもの」と定義されています​。

 例えば、正当な理由のない長時間の居座りや執拗なクレームの繰り返し、大声での恫喝、暴言、SNS上への個人情報の晒し行為など、社会通念上不相当で従業員の業務に支障をきたすような行為や言動が該当します​。

 一方で、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」(条例5条)とも規定しており、正当なクレーム・苦情申出や意見表明など、顧客の正当な権利行使について十分な配慮を求めています。

 また本条は、障がいのある方など合理的配慮が必要な顧客への対応にも留意するよう求めていると考えられます​。このように、条例はカスハラを禁止する一方で、サービス利用者側の正当な権利にも配慮した内容となっています。

 また、東京都は条例の施行に向け、カスハラの内容や各主体の役割、具体的な防止策を示した「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」を2024年12月19日に策定・公表しました。

 このガイドラインには、代表的なカスハラ行為類型や企業が講ずべき具体策が盛り込まれており、各企業が自社の状況に応じた効果的な対策を講じる際の参考となるものです。

 東京都内の企業は、カスハラ防止条例及びそのガイドラインに従ってカスハラ対策を行い、従業員を守ることが義務付けられることになります。

 東京都のカスハラ防止条例は、官民問わず条例の対象とし、公共サービスを利用する役所の窓口利用者をもその対象としている点に特徴があります。国会議員や地方議員がその立場を利用し、公務員に対して過度な要求を行ってその就業環境を害することも、「カスハラ」に当たることとされます。

東京都の「カスハラ防止条例」における罰則

 東京都のカスハラ防止条例は、企業側に従業員を守るような対策・被害を受けた従業員の支援体制整備を求めることを主眼にしていることもあり、カスハラ行為をしたものに対する罰則は設けられておりません。但し、ガイドラインにおいて具体的にカスハラ行為に該当するような行為を列挙し、それらを禁止行為として定めることが見込まれています。

 罰則がないとはいえ、禁止行為を具体的に定めることにより、そもそもカスハラが起きないように抑制効果を持たせることが狙いといえます。

 また、カスハラ防止条例は、あくまでも企業が取るべきガイドラインを示すに留まりますので、条例に違反してカスハラ対策を取らない企業に罰則が科されることもない予定です。

 とはいえ、企業がこのような体制を整備しないままでは、従業員を充分に守ることはできませんので、パワハラ・セクハラなどの他のハラスメント同様に、ゆくゆくは、社会的にカスハラ対策を取っていない企業の方が少数化していくであろうことが想定されます。

 加えて、条例違反に対する制裁がないとはいえ、悪質なカスハラが発生した場合に企業としての対策を何もせずに従業員に被害が生じた場合には、行政からの指導や勧告等の介入が行われる可能性もあります。

 他のハラスメント(パワハラ・セクハラ等)と同様、企業には従業員に対する安全配慮義務がありますので、カスハラ被害を放置すれば安全配慮義務違反として民事上の責任追及(損害賠償請求等)を受けるリスクも否定できません。したがって「罰則がないから対策不要」という油断は禁物であり、企業は条例の趣旨に沿った真摯な対応を求められます。

東京都カスハラ防止条例の奨励金・補助金による支援制度

 東京都は、顧客と働く人がお互いに尊重し合う社会の実現を目指し、企業や団体によるカスハラ防止対策を促進するため様々な支援策を展開しており、その一環としてカスハラ対策に関連した補助金・奨励金制度を設けています (東京都産業労働局の資料東京都Webページ)。

 主な東京都の支援制度は以下のとおりです。

東京都カスハラ防止条例の企業向け奨励金・団体向け奨励金・団体向け補助金の比較

企業向け奨励金(※2025年6月募集開始予定)

 都内中小企業(従業員300人以下の法人や店舗運営者など)等を対象とした奨励金です。条例施行日以降に自社のカスハラ防止対策マニュアルを策定し、録音・録画環境の整備やAIシステム導入、外部人材の活用など実践的な防止策に取り組んだ場合に、一社あたり定額40万円が支給されます(令和7年度東京都予算案の概要_主要な施策

団体向け奨励金(※2025年6月募集開始予定)

 都内の業界団体など会員企業で構成される団体を対象に、会員企業及びその従業員向けにカスハラの防止対策の体制整備を行った場合に支給される奨励金です。1団体あたり最大100万円が支給されます。

主な支給要件

  1. 企業向けカスハラ対策方針の策定・周知(20万円)
  2. カスハラ防止対策のサポート窓口の設置(40万円)
  3. カスハラ対策研修の実施 (20万円)
  4. 外部人材等活用によるカスハラ対策の実施(20万円)

団体向け補助金(※2025年4月募集開始予定)

 カスハラ防止対策に取り組む都内の団体(例:業界団体)を支援するための補助金です。顧客との接点を効果的に活用し、条例の普及啓発と防止対策の推進に東京都と連携して取り組む団体を対象に、経費の1/2を補助(上限5,000万円、採択予定約10件)する制度となっています。

 これらの支援制度の詳細は、東京都産業労働局の公式サイト「TOKYOはたらくネット」上でも案内されており、今後順次申請方法や要件等が公開される予定です。各補助金・奨励金を活用することで、事業者は自社の実情に応じたカスハラ対策を推進しやすくなり、条例施行に伴う負担軽減と効果的なハラスメント防止に寄与することが期待されます。

東京都以外の自治体での取組み

 また、東京都以外の自治体でも、類似したカスハラ対策をとるよう企業に求める条例が策定されつつあります。このような流れは、いずれ全国化していくと予想されます。

北海道でのカスハラ防止条例の制定の検討や対策

 北海道では、2024年6月24日の有志議員による会合を皮切りに、超党派で「北海道カスタマーハラスメント防止条例」の策定に向けた議論が本格化しました。

 当初は条例素案の検討段階でしたが、東京都の動きを追う形で議論が進み、2024年11月26日に開催された北海道議会第4回定例会で同条例案が全会一致で可決・成立しています。都道府県レベルのカスハラ防止条例としては東京都に続き2例目の成立であり、2025年4月1日からの施行が決定しました。

 東京都同様に、カスハラを「客の要望や言動のうち長時間の拘束を伴うものや執ような繰り返し、大声、暴言、SNSへの個人情報の開示などによって就業環境が害されるもの」と定義づけ、これに対する対応策を企業に提示します。

 SNSへの個人情報開示は、従業員の氏名や容ぼうを勝手に公開して誹謗の言葉を記すような行為を指しますので、現代的な問題といえます。

 また、北海道条例では「北海道カスタマーハラスメント対策推進協議会」の設置も規定されました。この協議会は、北海道庁や市町村、事業者団体、関係機関などで構成され、カスハラ対策に関する情報共有や連携強化を図るものです。

 北海道のカスハラ防止条例においては、カスハラを受けた従業員や事業主用の相談窓口の設置がなされる見込みです。カスハラ対策を企業側だけに求めるのではなく、行政としてもカスハラ被害者支援をすることとなります。

三重でのカスハラ防止条例の制定の検討や対策

 また、三重県においても、東京都の「カスハラ防止条例」策定の動きを参考に、カスハラ防止条例策定が検討されています。

 2024年7月19日には、具体的にカスハラ防止対策推進本部が設けられました。このカスハラ防止対策推進本部が、カスハラ防止条例策定を主導していくことが見込まれます。更に、2024年7月23日にはカスハラ防止対策検討懇話会を設け、各会の有識者から意見を求めてカスハラ防止対策について検討が開始されました。

 三重県知事は、サービス提供者と消費者が対等であるという意識が社会に浸透していないことを嘆く発言をしており、今後意欲的にカスハラ対策を進めていくと考えられます。こうした動きを経て、三重県は2025年内にも条例を制定する方針であることが明らかになっています。具体的な条例案の公表時期は未定ながら、県内の実情に合わせた内容になると推測されます。

 なお、三重県内の基礎自治体レベルでも先進的な取組みが見られます。三重県桑名市では、2024年12月に全国初となる「加害者の氏名公表」規定を盛り込んだカスハラ防止条例を市議会で可決・成立させました。

 この桑名市条例は、福祉施設や病院、学校など公共性の高い施設でのカスハラも対象とし、警告後もカスハラ行為を続けるなど悪質なケースでは、適正な手続きを経た上で加害顧客の氏名を公表できると定めています。氏名公表という制裁措置を含むカスハラ条例は全国でも異例であり、2025年4月より施行されます。

 このように、三重県では県レベルの条例策定が進む一方、自治体(市町)の段階でも独自に踏み込んだ対策が取られ始めており、今後の展開が注目されます。

企業におけるカスハラ対策の重要性

 東京都を皮切りに各都道府県でカスハラ防止条例制定の機運が高まってきています。いずれの条例もカスハラの具体例を挙げて明確に禁止するとともに、カスハラが発生し得る事業者に対してその防止措置を講じるよう求める内容となっています。

 セクハラやパワハラのように、法律で禁止されているハラスメント同様、今や社会現象というべきカスハラについても、国が統一的な法律を制定することも近いかもしれません。

 そのような時勢ですので、企業においても、具体的なカスハラ対策をとることが喫緊の課題といえるでしょう。条例そのものに罰則がなくとも、社会的には「社員をカスハラから守るのは企業の責任」という認識が広がりつつあります。

 このため、企業は、早期にカスハラ対策について検討し、整備をしていくことが必要とされます。また前述のとおり、万一何も対策を講じず被害を放置した場合には、企業が法的・社会的責任を問われかねません。リスクマネジメントの観点からも、カスハラ対策は企業経営に不可欠な要素となりました。

 具体的に企業が取るべき対応策としては、まずは、現場で想定されるクレームや迷惑行為のパターンを洗い出し、カスハラ対応マニュアルを社内で作成し、実際に起きたカスハラ事例を用いた研修を実施することをお勧めいたします。

 実際に起こり得るカスハラ事例を用いたロールプレイ研修や、適切な対話術・対応スキルのトレーニングを行うことで、現場スタッフの不安を軽減し自信を持って対応できるようにします。

 さらに、深刻なケースでは迷わず警察や弁護士に相談するという判断基準を周知しておくことも重要です。従業員が一人で悩み抱え込まず、会社として組織的にバックアップする体制を示すことで、従業員の安心感・エンゲージメント向上にもつながるでしょう。

 大切な従業員を守るためにも、早期の対応をとりましょう。

 合わせて読みたい:【企業に必要なカスハラ対策】JR西日本のカスハラ対策を例に弁護士が解説

まとめ

 以上のとおり、東京都を中心に、カスハラ防止条例についてご説明しました。2025年には東京都およびいくつかの道県で条例が施行され、同様の流れは各都道府県にも波及していくと想定されますので、東京都以外に会社をお持ちの経営者の方々も、社内において早期のカスハラ対策をとることをお勧めいたします。

 このためには、カスハラ問題に精通した弁護士を顧問弁護士にして平時の相談を容易にしたり、カスハラ研修に講師として招いたりすることを試してみてはいかがでしょうか。

 カスハラ対策をどのように進めたらいいかわからない、実際にカスハラが発生している、補助金について知りたいなど、カスハラ対策についてお困りの方は、ぜひ、お気軽に弁護士法人グレイスまでご相談ください。

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【著者情報】

企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)

九州大学大学院法学研究科修士課程 修了

米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業

三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務

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監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

本店所在地
〒105-0012 東京都港区芝大門1丁目1-35 サンセルモ大門ビル4階
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