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企業法務コラム

【カスハラによる労災認定】住宅メーカー社員の自殺を例に弁護士が解説

投稿日:
更新日:2024/08/22

住宅メーカー社員がカスハラなどを原因として自殺

 皆さまは、住宅メーカー社員がカスタマー・ハラスメント(いわゆるカスハラ)などを原因として自殺したというニュースをご存じでしょうか?
 2024年7月下旬の報道によれば、2020年に、ある住宅メーカーの新入社員(当時24歳・入社2年目)が、顧客の迷惑行為・カスハラを原因に社員寮で飛び降り自殺をしてしまい、新入社員の両親が遺族として労災申請をしたとされました。
 結果として2023年10月には労災認定がなされたようですが、同認定によれば、この新入社員は、ある顧客から、「そんなんじゃ銭なんか払えねぇぞ!」、「すいませんで済むか、おめえ!」、「今から来いよ!」などと暴言を受け、更には休日の対応まで求められてしまっていたとのことです。

カスハラなどが原因で精神障害を発症していた

 上記社員は、カスハラなどを原因として、強い心理的負荷を受けて精神障害を発症してしまっていたとのことです。このように、カスハラによって精神的ダメージを受け、休職や自殺に至ってしまう社員が出てしまった場合には、労災認定がなされることも少なくありません。
 以下では、カスハラで労災認定がなされる基準と、カスハラへの対応策についてご説明します。

カスハラによる労災認定

 カスハラによる労災認定は、以下の基準に則って行われます。

労災認定を受けるためには「心理的負荷による精神障害」の判定が必要

 そもそも前提として、労災認定を受けるためには、「心理的負荷による精神障害」の判定が必要です。これは厚生労働省労働基準局が策定している基準に則って判定されるものです。
 直近では、2023年9月1日付けで、カスハラ、すなわち「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことも精神障害発症の具体的出来事の例として含むこととするなど、カスハラによって精神障害を発症した場合も念頭に置かれた基準となっています。

心理的負荷による精神障害と判定される労災認定基準

  では、具体的には、どのような場合に、「心理的負荷による精神障害」に該当すると判定されるのでしょうか?
 厚生労働省労働基準局の心理的負荷による精神障害の認定基準によれば、
  ① 対象疾病(※精神障害を指す)を発病していること
  ② 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  ③ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
の全ての要件を満たす場合に、心理的負荷による精神障害であると認定されます。労災申請をする労働者は、精神障害を負っていて①を満たすことが大半ですから、ここでのポイントは、②と③の要件でしょう。

1.業務による強い心理的負荷が認められること

 業務による強い心理的負荷が認められるか否かは、精神障害の発病に関与したと考えられるどのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握した上で、一般的な労働者がその出来事をどのように受け止めるかという観点から心理的負荷の強度を測って決定するとされます。
 更に具体的には、業務による心理的負荷を類型化した上で心理的負荷の強度を測り、その後の本人の対応の困難さ(どの程度困難な対応を強いられたか)によって強度を調整することとされます。
 カスハラについては、上述したとおり、2023年9月に基準が定められており、「顧客等から人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた」、「顧客等から、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた」、「会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」ことに当たると判断されると、業務による強い心理的負荷が認められると認定されることとなります。
 会社がカスハラを知ったにもかかわらず対応をしなかった場合も、強い心理的負荷があったと認められることに、注意を要します。

2.業務以外の心理的負荷及び個体側要因による発病でないこと

 この基準は、端的にいえば、業務外の原因に基づく精神障害の発病や、個人が元々持っていた精神障害やアルコール依存症などに基づく精神障害の発病・悪化は除くという基準となります。この点は、本人の既往症などを調べた上で、判断されます。

取り組むべき企業の対応策

 従業員が、カスハラによって精神障害を発症し、休職や自殺に至ってしまった場合、上述したような基準に則って労災認定がなされることとなります。会社・企業としては、このような労災事故が発生しないように、対応をとることが必須といえます。
 企業として取り組むべき対応策としては、カスハラ対応マニュアルの策定やカスハラ研修の実施によるカスハラへの理解促進・対応方法の統一に加え、実際にカスハラを受けた従業員へのサポート体制の整備も挙げられるでしょう。
企業がカスハラを認識したり、従業員から相談を受けたりしたにもかかわらず何らの対応も取らなかった場合には、従業員からすれば業務に就くこと自体が大きなストレスとなってしまいます。このため、上述したように、「会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」場合にも労災認定がなされることとなり得るのです。
 企業としては、このような事態を防ぐために、例えば、カスハラを受けた従業員がすみやかに顧問弁護士の支援を受けることのできる体制を整備するなどの具体的なサポート体制を構築することが有用であるといえます。

まとめ

 以上のとおり、新入社員がカスハラなどを原因として自殺してしまったという実例を踏まえ、カスハラと労災認定の関係・企業が取り組むべき対応策についてご説明しました。昨今は、カスハラが社会問題となっている情勢といえますから、ぜひ早期に、顧問弁護士を付けるなど、タイムリーに弁護士の支援を受けることのできる体制を構築することをご検討いただければと思います。
 従業員をしっかりと守ることのできる会社・企業であることが、何よりも重要です。

【著者情報】

企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)

九州大学大学院法学研究科修士課程 修了

米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業

三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務

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監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

本店所在地
〒105-0012 東京都港区芝大門1丁目1-35 サンセルモ大門ビル4階
連絡先
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