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建物明渡の強制執行手続きについて

建物明渡請求訴訟で判決を取得した場合であっても、それだけで賃貸人が勝手に鍵を替えたり、賃借人の荷物を運び出したりすることはできません。
賃借人は、賃貸人に対し、「建物を明け渡せ」との判決を取得後も、賃借人が退去しない場合には、「強制執行」の手続きをとる必要があります。そこで、今回は、判決取得後に賃貸人がとるべき手続きについてご説明します。

1.判決の取得

賃貸人が賃借人に対し、建物明渡請求訴訟を提起し、勝訴判決(建物明渡を認める判決)を取得したとします。
判決主文には、明渡しを認めるとともに、「仮に執行することができる」との仮執行宣言が付される場合と付されない場合があります。

(1)仮執行宣言が付された場合
判決は、当事者双方の控訴期間が経過した時点、すなわち各当事者について判決書の送達を受けた日から2週間が経過したときに確定します(民事訴訟法285条)。
しかし、明渡しについての仮執行宣言が付されている場合には、判決が確定する前にその強制執行の申立をすることができます。
強制執行の申立には、①判決書(債務名義)②執行文③送達証明書が必要です。執行文付与と送達証明書は、明渡訴訟を行った裁判所(書記官)に申請します。執行文は300円の収入印紙、送達証明書は150円の収入印紙が必要です。
被告(賃借人)に判決が送達された後、判決が確定する前でも、執行文と送達証明書を取得することができます。

(2)仮執行宣言が付されなかった場合
この場合は、判決が確定するまでの間は、強制執行の申立をすることができません。そのため、仮に賃借人が控訴した場合には、控訴審での審理の間は強制執行ができなくなります。
仮執行宣言が付されなかった場合には、強制執行の申立には、①判決書(債務名義)②執行文③確定証明書が必要です。執行文付与と確定証明書は、明渡訴訟を行った裁判所(書記官)に申請します。執行文は300円の収入印紙、確定証明書は150円の収入印紙が必要です。

2.強制執行の申立

強制執行は、次の書類をもって執行官室に申立を行います。

①強制執行申立書
②執行文の付された判決正本
③送達証明書又は確定証明書
④物件目録、当事者目録
⑤債務者に関する調査表(氏名、性別、年齢、在宅状況、職業等の状況をわかる範囲で記載します。)
⑥執行場所の案内図(最寄り駅から強制執行の対象物件までの経路がわかる地図など)

3.予納金と執行官面接

申立時に、保管金提出書と面接票が交付されますので、保管金を納め、執行官面接を行います。東京地方裁判所では、保管金(予納金)65000円、執行官面接は午前8時50分から9時20分の間に行なわれます。

4.催告期日

執行官面接で、催告日が決定されます。ここで決定した日時に、執行官、立会人、執行補助者(運送業者)、鍵解錠技術者などが強制執行対象物件に赴きます。
このとき、賃借人(債務者)が不在の場合や、鍵を開けない場合であっても、強制的に鍵を開けて対象物件内に立ち入ることができます。
対象物件内では、執行補助者が部屋に置かれている物やその量を確認し、明渡作業にかかる費用の見積りを行います。強制執行を断行する時間は限られているため、荷物が多ければ、手配しなければならない人員も多くなり、費用がかさみます。また、催告日の執行補助者の費用(日当)は、執行予納金には含まれません。
強制執行期日(断行日)や注意事項を記載した催告書・公示書を対象物件内の壁に貼ります。

5.強制執行期日(断行日)

定められた強制執行期日までに、賃借人(債務者)が明け渡さなかったときは、明渡しを断行することとなります。指定された日時に執行官、立会人、執行補助者(運送業者)、鍵解錠技術者などが対象物件に赴きます。このときも、賃借人(債務者)が、鍵を開けない場合であっても、強制的に鍵を開けて対象物件内に立ち入ることができます。ここで荷物が残されていた場合には、手配していた作業員が、対象物件内にある荷物を運び出します。これらの作業が終わり、執行官から賃貸人(債権者)に対象物件が引き渡されれば、終了です。なお、強制執行の手続で最も費用がかかるのは、この運び出しの費用(作業員日当、トラック代、処分費、保管費など)です。

著者:竹中 千晶

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